釣り旅崩れ


先日来、書こうか、書くまいか・・・と悩んでいた。

こんなことで悩むなんてオイラも下らないヤツだなぁと

反省しきりだ。

2008年8月終わりには、山中湖へ行こうと決めていた。

なんせ、今年の夏は猫も寝込むほどの暑さだった。

この12年間で一度も無かった37℃を

自分の部屋で記録した。

山中湖村・・・ここの涼しさは別格だ。真夏の朝は16度

昼間でも木立に佇めば、暑さなど無縁の世界だ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

若い頃、友人の親が別荘を持っていて

夏、秋、冬に訪れた地である。

当時は、今年こそ富士山に登ろうな!といって登山靴など

持参していたが、毎晩酒を飲めば、山登り?またにしようぜ。

遂に富士山には登ったことがない。

でも、勿体ないことをしたという気は全く無い。

酒を飲んで人生を語ることのほうがオイラにとっては

重要だと思ってたから。今もその気持ちに変りない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

8年ほど前は、まだ真面目に一人で仕事をしてた。夏に仕事が溜まって、

どうしょうもなくなり資材を担いで涼しいこの地へやってきたことがある。

朝から深夜まで仕事して、一月でなんとかやっつけて香川県へ帰宅した。

今思えば懐かしい。

その頃は、もちろん渓流の釣りなどやったことがなく、

近くに桂川や道志川があることも頭に無かった。

もし、釣りを知ってたら、仕事は片付かなかったかと思うと

ゾッとする。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今は違うぞ!!旅したくもそぞろに、道志川の地形、渓相を想像しながら、

国土地理院の地図を検索してはプリントする。

ここへ行かないと!と思う場所の緯度・経度をメモとして書き付ける。

縮尺から見て、遡行時間を考えたりするのも楽しいが、

渓の斜度があるといやだなぁと思ったりもするのだ。

何せ、ユル渓専門家だから、両岸が切り立った崖やら滝やらありそうな

場所になると思わずマユをヒソメルお爺なのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大鳴門橋を渡って淡路島。

明石橋を越えれば兵庫県の垂水市だ。

眠くなれば、PAで後ろに這いこんで仮眠を取る。

伊勢湾岸を通る新しい名神を走って

御殿場ICを出たのは午後の3時を回っていた。

小雨が降っている。気温は20度前後だろう。

それにしても、酷い渋滞で、信号で止まるたびに横道から

車が湧くように出てきて空いた交差点を埋めていく

ものだから、なかなか前に進まない。籠坂峠をこんな

調子で行くとガス欠を起すかもしれないと不安になる。

いくら夏休み最後の土曜日だからといって、

こんな雨模様の日に山中湖へどうして向かうのだろう?

寒くて震えるに違いないのに・・・・

関東近辺の人たちの気持ちが判らん。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日は朝から大きな雨が降っていた。

近くに野菜の直売場があるから、そこで調達するように

言われていたのを思い出して、忍野の畑を走って、とうもろこし、

茄子、胡瓜、トマトを車に放り込んで、

道志川の下調べに向かった。

山伏峠を山中湖側から越えて、一気に下り坂になる。

緯度経度は調べてあるので、とあるポイントから覗いてみると、

川が濁流となってまっ茶色い山がうねるような流れだ。

こりゃ、あかんわ!

それに、益々雨が酷くなって来たではないか。

道の駅があるところまで下ろうと思っていたが、

下手すると、山伏峠さえ、通行止めになるのでは?

と思われるほどの土砂降りだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日も、雨は止まない。

気温はどんどん下がって、長袖シャツにちゃんちゃんこを羽織っても、まだ寒い。

35℃の四国が恋しくなるような寒さだ。

仕方が無いので暖炉を焚くことにした。新聞紙をひねって何本か火種に

なるようにして、細い木の枝から火をつけていく。

流石に薪が燃え出すと室温が上がっていく。

人心地がついて、ウイスキーを呷るとやっと落ち着いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌朝になっても、一向に天気は回復の兆しを見せぬ。

川を見に行く気もせずに、ぼんやりとオリンピックのハイライトなどを

普段見もせぬテレビで眺めるばかりだ。

倅がやってきたので、今日は乾杯をしようと、魚屋へ行って食材を調達だ。

本来ならば、ここに道志のヤマメのムニエルが並ぶはずだったのに・・・

倅が言うには、ここまで来て釣りにもならんのなら、自分の女房の

親に挨拶しに東京まで足を伸ばしてもらえないか?

オイラは夏休みで避暑に来たんだぞ!なぁ〜んで暑苦しいヒトゴミのお江戸なんかに

いかなきゃならんのよ!いやだね、そんなの!

と言って断ったんだが、

酒に酔ううちに決心も鈍ってきた。

倅が泣くようにして頼むには、普段、それなりの後ろめたさが

あるのかもしれない(オイラにはありませんがね)。

よっしゃ。ほいだら明後日伺うことにすると返事してくれ!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

オヤジよ、それにしても酷い格好をしてるぢゃないか?と倅。

そんなにヒドイ格好かなぁ?と銀。

ボロボロでなんだか妙なパッチを当てたジーンズにセッタでは

女房の親には会わせられんなぁ〜と倅。

弱ったね。どうしょう・・・だって避暑に来たんだからなぁ。と銀

しゃぁねぇ。御殿場のOutletで何か買ってくることにするか・・・

で、御殿場のOutLetへのこのこ出掛けたが、メチャクチャ混んでる。

そのくせ、オイラが欲しいものなんか、何一つない!

なんぢゃぁ〜こりゃ?

とうとう、ボロのジーンズと雪駄で東京まで来てしまった。

セガレの車に乗って、東名高速を用賀で降りると、環8だ。

環8沿いにUNICLOがある。

なんと、昔はヤマギワ電気だった場所だそうだ。

栄枯盛衰よなぁ〜。といってもヤマギワさんが倒産したとは

聞かないが・・・

3,900円也でチノパンを買った。

3足で900円也の靴下も買ったぞ。

阿佐ヶ谷の東京靴卸売りセンターは、昔住んでた家のそば。

革靴のカッコ良いヤツをと探すが、ンなものどこにもない。

カッコ悪い靴ばっかし。

New Balanceのウオーキング・シューズにした。

考えてみれば、もう革靴なんかに足が入らない生活者なんだった!

雪駄、下駄、ウェーディング・シューズしか、

履いたことないぢゃないか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日、「おめかし」して、嫁さんの両親にご挨拶。

肩肘張った世間話なんて、本当に久しぶりで疲れた。

3時間後には、新宿発、山中湖行きのバスの人になっていた。

山中湖に着くと、すでに夕闇が広がっており

やがて真っ暗闇になった針葉樹林帯を

ひっそり2kmほど歩いてネグラに帰ったのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌朝も小雨が銀の糸のようだった。

家を出て6日が経った。

渓流で釣りをしたいと思う気持ちも薄らいで来ている。

もはや潮時ではなかろうか。

ここの庭に咲く花の写真を撮って帰ろう。

殆どの花の名前を知らない。

花も、それを責めることなく、ひっそりと咲いていた。

完璧に咲いていた。

大いなる無駄な釣り旅はかくして崩れ、

終焉となった。

この直後、関東、東海地方は豪雨に見舞われ

あちこちで災害が発生した

2008年の8月終わりのことである。

家に帰ってパソコン開けば、

知り合いの釣師たちが

尺を越えるアマゴを

釣っていた!!

なんちゅうこっちゃ・・・


2008年09月11日 木曜日

 

 

   
 

銀次郎釣り話トップへ

   
   
inserted by FC2 system