ヘヴィな釣り


私には沢山の師匠がいる。仕事の上での師匠、囲碁の師匠方、彫金の師匠たち、そして釣りの師匠だ。吉川英治師が言っていた。「吾以外皆師」とね。人間の数だけ師匠がいるのかもしれない。誰もが何か、プロフェッショナリティを持っているんだから。

今回は一度、お世話になりたいと思っていた師匠との釣りだった。釣りの師匠方は、ごく一部の師匠を除くと、みな厳しい渓をまったくいとわない方々だから、うっかり師匠の勧めで渓に入ると、とんでもないことになるのは目に見えている。

で、いつも、緩い渓でお願いしますと申し上げてきたのだが、それを素直に聞き入れて下さる師匠方は、ホント少ないのだ。行きはヨイヨイ、帰りはコワイとなるのが常なのである。従って、私のような渓流釣りの初心者の皆様は決して、渓流歴ン十年という方との釣行はなるべく、言い訳をしてお断りをしながら、危険から身を守るようにして頂きたい。これ、ホントよ。誰も守ってくれないんだからね!

東京は渋谷の並木橋の近くに、サンスイ渓流館とか銘打った釣具屋さんがある。ここにしかないテンカラ用のレベルラインというのがあって、足を踏み入れたことがあった。だからといって、オイラがテンカラ釣りが出来るかというと、これは嘘でテンで駄目なんで、テンダメ釣りなんて言ってるんだがね。

そこの店員さんで、これはもう、映画俳優になったほうが人生成功するぜと思わせるようないい男がいる。彼と何の気なく話していたら、自分は高知の生まれで、ヨンドコロない理由でシガナイ釣具屋の店員なんだが、世が世であれば〜なんて言わないけど、高知の某川では悪い目に遭ったことが無い!!などとノタマウものだから、ちょっと前から高知の渓には、人知れぬ魅力というか、欲を抱いていたんです。

それで、某釣師の会の大重鎮に泣くようにお願いして、本当に緩い渓へ連れていってと頼んでおりました。

それで、大重鎮が高知の渓を案内してくれたという次第。

朝は早くから、高速を出たところの道の駅で待ち合わせ。行きましたねー。

遥か眼下に流れる清流。ここを釣るかと思うと心がトキメクではないか!しかし、水量が多い。多すぎる。

 

山ひだに張り付くようにつけられた道路を何処までも走る。ここもバイキンが居ないような景色が続いている。

本流が増水で、釣りにはならないとの判断で、支流を探してさ迷い歩くことになった。

やっと、無名の渓への入り口に到着。本流出合いから薄暗い谷が口を開けていた。こんなところ、いやだなぁ。またぞろとんでもなく険しい谷になりそうな気配が漂っているではないか?

 

師匠はキッチリヘルメットを被り、落石やら転倒に備えている。それにしても、歩くのが早い!まるでテンカラ釣師のように岩を越えていく。

 

例によってどこでも姿を現す堰堤群・・・

 

師の足ごしらえを見よ!不細工なウェーダーなど無縁の姿だ。軽装。渓流釣りの基本を見るようなイデタチなのだ。

そこへ行くと銀次郎なんかは、ウェーダーに、ウェーディングシューズ。しかも靴がでかくて水が一杯入って、鉛の下駄を履いているような、気分だ。ベストにはミミズ通しだとか、ハサミだとか、ラインカッターなんかがぶら下がり、ガチャガチャと音を立てている。カメラを首から下げて、腰には魚籠を巻いて、なんだか弁慶の七つ道具みたいな・・・書いただけで疲れ果てるようなカッコしてるんだもんなぁ〜。こりゃまずいよ。おまけにカッパなんかも被ってるから、ちょいと用足しなんてときには、大変なんだ、これが。

昼飯は師匠がチャッチャとカップ麺を作ってくれた。兎に角、釣りはなんでも、チャッチャトが大事なんだ。

すばやく、すばやくなのである。

午後からはさらに上流を目指す。時折、師匠が上流で魚を掴んではこちらに向かって手を振っている。駆けつけてみると、岩の間の砂地にプールを作って魚を泳がせては遊んでいるではないか?

まるでジェット機のような、いや、それよりもっと無駄の無い精悍な魚体だ。

尊顔を拝してから、渓へお帰り願いました。ここからしばらくして、予定の刻限に差し掛かったので納竿しました。

さあ、これから車止めまでボチボチ帰りましたが、長時間の釣りで疲れていたせいか、二度ほど転倒してしまいました。一回目は川の中で、左腕と左足、右のコブシで受け止めましたが、二回目は渓から右岸の小道へ上がろうとして木の根っこで足を滑らせて、右脇腹と右腕の上のほうを打撲。

1週間痛みましたね。でも、大した打ち身でなくて良かった。

師匠は私の釣りを見て、あるところで、思わず「へたくそ!」と怒鳴ってましたっけ。アマゴが餌をコヅイテるのに、オイラはもたもたして、ハリにかけることが出来なかったんだもの、言われてもしゃぁないわなぁ。

宿へ戻ってから釣った魚の処置を施しました。今回は米ヌカと塩を混ぜたのを持参してたので、アマゴのお腹を綺麗にして、エラも外したもののお腹にヌカ塩を塗りこんで、宿の冷蔵庫へしまいました。

さぁ〜師匠が風呂から上がるのを待ってビアでかんぱ〜い!かんぱ〜い!楽しい釣りが出来ました。

疲れた体にビアがぐびぐびと吸い込まれていきます。ビアから冷酒になって、これが何本か空になっていく。釣りの話は殆どしなかったように思うんだけど、やたらと時間が経っていき、遂に師匠が、

オイ!明日も泊まらんかよ?!」と言い出す始末。オイラも実はもう一泊、どこかで宿を求めて釣りたいなと考えて家を出ているので、ハイ!ようがすと答えていました。

こうなりゃ、ドンチャンドンチャン、宿の女将さんも混ぜて大宴会がいつ終るとも無く続きました。

こういった野菜料理はお酒にピッタリで、悪酔いしない。

翌朝早く、「夜が明けたら釣りに行くもんぜ」とかなんとか、師匠の寝言が聞こえたものだから、てっきり師匠は一人で釣りに出掛けたものと思っていた。

しかし、フト目覚めて隣を見ると・・・・誰やらのアンヨが見えている。あれぇ〜。師匠は釣りに行ったのだとすると、誰かと3人で来たのかなと錯覚する・・・

それからしばらくして、おい!一杯やらんかや?見たいな掛け声がするではないか?なんぢゃ、こりゃ?

師匠釣りにいったんではないのかい?眠い目をこすりながら起き上がると・・・師匠台所には酒があるモンぢゃといいながら、台所から酒ビンを持ってきた。茶碗だったかコップに日本酒を注いでグビリ。

オイラも師匠に負けちゃおれんから、かんぱ〜い!

さぁ、朝から大宴会の続きになってしまった。夕方まで、なんぢゃかんぢゃと言いながら、またぞろ日本酒を飲み続けて、そのまま晩飯になって、またぞろお酒を頂きながら、人生論。

翌朝、こんどは真面目になって、師匠はお勤めのために5時に起床されて帰られました。

ああ、ヘヴィな釣りでした。お師匠さん本当にお疲れ様でした。


 

 

 

 

 

 

   
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