思い入れの渓 人には誰にも、思い入れのものがある。これだけは・・・ここだけは・・・彼だけは・・・彼女だけは・・・・などなど数えだすとキリがなく、ある意味でこだわりと言っても良いだろう。 渓流にもひとそれぞれに、思い込んだ渓というものがあるようだ。私にはこれといって思い入れた渓などないのだが、それでも天国の渓とか、いくつかふぅっと心に浮かぶ美しいところがある。 今日は爺Bさんの、そうした渓へ行くことにしていた。年齢が近いコンビというものは、年齢差を意識せずにある程度の文化的な価値観を共有しているところもあって、気楽な釣になる。 疲労の度合いや遡行の能力なども殆ど違いが無いから、離れて見えなくなってもどの辺に居そうか見当もつき易いし、休むタイミングなどもよく一致している。若い人と行くと楽しいんだが、あっと言うまに姿が消えてたり、遡行方法が全く違ったりしていて、年齢差をいやがうえにも感じてしまうものだ。 ま、そんなこんなで楽な釣をしようぜってなことで、この渓を訪ねた。吉野川の支流だが、険しい渓ではなく、どちらかと言えば里川が徐々に渓流になっていくという雰囲気を持っている。それでも、ある程度上がると厳しくなって遡行できなくなるそうだ。そんなところまではオジイは行ってはいけないのだ。 入り口の渓相は決してよくない。 遠くに支度をするBさんの姿が、いかにものどかに見えるのが嬉しい。アップで捉えると・・・・・ ってな具合で手間取っている。 この下でなにやら魚がうごめくのが見えたので、急にテンションが上がったのであった。しかし、釣れて来るのはオイラが得意とする魚だった。 しばらくは釣り上るBさんの後をついていく。
何か掛かっても良いのだが・・・シーン・・・Bさん、新しいバッグ(水色の奴)をぶら下げている。これには昼飯、アルコールなどが入っているのか? Bさん、この辺で粘ると見たので、オイラはちょっとだけ上流を目指す。と、ちょっとした堰堤崩れのようなものがあったので、そこへ餌を放り込むと、なんだかアマゴらしいアタリがあったのだが、掛け損なった。 いつまで行っても、釣果なしで、言葉少なくなるのも否めないが、天気は最高だ!! この景色どぉですか? 今年の春渓の写真としては、一番のもののような気がしたものだ。背景の山には桜が残り空は青く渓に映える。惜しむらくは渓の水の色が気に喰わんなぁ〜。灰色がかった青い色なら、展覧会に出せる写真になったはずなのに・・・・ でも、この落ち込みの左下手で、アマゴが掛かった。水面でバタバタと20cm前後の魚体が暴れていたが、仕掛けが木の枝に掛からないようにと、竿をたたんでいる最中に外れてしまった。立ち上がって抜けば良かったんだと思う。 ここで昼飯を食べてから、ずんずん遡行するも、釣れるのは雑魚ばかり。藪が酷くなってきて、ブツブツ文句言いながら歩いていたら、突然目に激痛が走った。痛い!!まぶたに手を当てると血がついた。まぶたをイバラの棘で切ってしまったようだ。後で考えるとこれが目玉に及んでいたら、結構大変なケガになっていたかも知れない。渓には危険なものが沢山あるなと思う。油断は出来ない。 川の悪口なんか言ってるからこういうことになるんだと、大いに反省して、「川さん、ごめんなさい」と謝りながら最後の淵までたどり着いた。そこには橋が架かっていて、すぐに退渓できる。ここで、最後だなぁと思いながら、仕掛けを放り込んだら18cmくらいのアマゴが掛かった。これはBさんの晩飯用ににプレゼントだ。 車を停めたすぐそばに、立派な岩を祀った社があった。半田岩というものらしい。
岩と岩の間に僅かな隙間があって人が通れるようになっていた。自然というものはトンでもない造形を生み出すものだ。 この岩を拝んで、Bさん思い入れの渓を後にした。
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