春はまだまだ祖谷の渓


3月15日は、テンカラの練習をするはずだったが、諸般の理由で出来なかった。夕方からの飲み会が待ち構えていたこともある。KYコンビとの飲み会だ。友人の鎮魂のためである。その友達とも何度も来た、例の店だ。

KYコンビ、電車が遅れるとか、もろもろの理由で定刻には間に合わないと言うので、予め店には電話しておいたのだが・・・爺が行ってみると、な〜んと二人ともすでに来ていて、ビールジョッキを目の高さに挙げるではないか!こりゃいかん。また遅れを取ったか!

友人のこと、自分達の感想などを述べ合う内に夜がふける。会話の流れで、20日の日曜日は祖谷へ行こうかということになった。Kさんによれば緩い渓だとのことである。爺にはユル渓しか行けないのを知っての配慮だ。有難い限りだ。

で、朝5時に待ち合わせて、祖谷を目指す。今の時期小島峠は積雪で通行不能ということで、大歩危経由となるが、それも祖谷のど真ん中で、道路が決壊しているので迂回路を取る。中上の知人宅の前を通ったが、朝7時に「こんにちは!」するのも非常識とのK氏の判断で帰路に寄ろうかとなった。

実は恥ずかしながら、祖谷川は数えるほどしか釣りに来たことが無い。なぜって、それは・・・なんとなく敷居が高いから。祖谷の険しさはみなさんからミミタコ状態になるほど聞いていて、オジイには無理だと昔から思い込んでいた。ションベン小僧のところから下を覗くと、オオコワとなったのも一因に違いない。

核心部へ到着したらしい。車の動きが緩急しはじめたから判る。も一度いけと言われても多分、無理だと思われる場所へ車をとめるK氏。 え?ここで?と思う爺。

枯れ草に雪がまとわりついて、滑る。ずずず〜ドシンと尻餅をついた。小さな流れが足元に。ここぉ?ここなんですよぉとK氏。

釣り上るに連れて水量が増してきた。不思議なもんだ。しばらくすると、アタリがあって小型のアマゴだ。交代に落ち込みを釣っていく。一番奥に大きな淵があった。ここはK氏の番だ。

それにしても寒い。ミゾレが降りかかる。

やがて、わおっ!という動物的な声に振り向くと、K氏の竿が満月のようにしなっている。やったな!大物だ。しばらく引きを楽しんでいる模様だったが、やがて美しい9寸が上がってきた。

しかし、なぜだか悲しそうな顔にも見えるK氏。

これは本当に綺麗な個体だった。誰が釣っても、こういうものは見てるだけで嬉しくなる。おめでとう!!

ここは打ち止めにして、本日のメインステージへ移ることにした。

小さい流れを後にして、本命の谷へ入って行った。ここは余りに良い風情なので、後日絵葉書を作って女房に献上した。絵葉書キチガイの彼女は大喜びだ。

雪と木立の繊細な枝、中心を流れる鉛色の川とのコントラストが美しいと思う。

芽吹きの頃また行ってみたい。

しかし、川は濁流で、釣りのポイントが絞れないばかりか、遡上にも危なっかしい有様。当然アタリなどどこからも無かった。流れも太くて横切るのもてこずる。氷雨やミゾレに打たれて、めちゃくちゃ寒い。早く温泉に浸かりたい気分だが、ロクなのが釣れてないのも悔しいというわけで、水量が多くない谷を探してさ迷うことになった。

小谷へ入るとすぐさま、雪道となって危なっかしい。幾つかの流れに竿を出すが、芳しくない。ところがとある小谷を見つけて、入ったところが面白かった。

ちょっとした淵では、必ず魚信があり、冒頭で爺にも8寸が掛かる。

そうこうするうち、K氏には今日二番目の8.5寸が掛かった。杉木立の薄暗い光の中で、燦然と輝く魚体はまさに、渓の宝物だ。

小岩をよじ登って越えたところで、K氏がここを釣ってみる!銀さんは先の淵へどうぞと言って竿を出した。

またしても、わぁっつ!!と叫び声。なんと、狭い木の枝で生い茂った隙間に伸びた竿先が左右に振られているではないか。こ、これわ!!と思い駆けつける。

いやぁ〜立派なアマゴが、タモに収まった。

 この獰猛な顔つきとたくましい尾びれを見てください。

爺もこんなの一度でいいから釣ってみてぇ。尺に近い9寸だ。口が鮭みたいにひん曲がっている。こういうのに会いたいから、釣りに通うんだとK氏。会心の笑みをご覧下さい。

Kさんは大物を釣るのが抜群に上手い。やはり、これまで数多の尺モノを釣ってきた経験と勘で釣り場所を見つけ出し、掛けたら確実に取り込みうる落ち着きがある。爺みたいに、大慌てでオタオタせずに整然と魚を引き寄せてタモに納めている。

この小渓流が何処にあったのか・・・おそらく、そこを通りかかっても見つけることは出来ないだろうし、二度とこんなことはないのだろう。本当に不思議な渓であった。


 

 

   
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