-異国の人たち-


あれはもう何年前のことだろうか・・・季節は初夏だったはずだ。サンノゼからボストンへの安いフライトを探したら、直行便ではなくてデンバーでの乗り換え便 となった。

デンバー空港で2時間の馬鹿待ちにたまらずタバコを吸いに外へ出ようと、長い長い通路を歩く。このエアポートはなんと馬鹿でかくて、単純な構造をしているのだろう。アメリカって単純なことと複雑なことが日本とは違う。

外はけぶるような雨が、やっと上がってあちこちに大きな水溜りがアスファルトに池を作っている。喫煙所は指定されていて、大きな足つき灰皿が、ポツンと車寄せの外れに置いてある。ここでしかタバコ吸っちゃいかんぞ!という印だ。

次々と飛行機の利用客を乗せたマイクロバスみたいなのや、タクシー、乗用車が到着しては客を降ろしてすぐに飛び立つ渡り鳥みたいな風情だ。南の方にあたるのだろうか、霧の掛かったよさそげな山が見える。

デンバーは昔、西部劇なんかでは牛使いのカウボーイ達の牛運びの最終地の市場として描かれていたが、今はそんなこともないのだろう。

ヤニを吸わないと頭がぼっとして、何しにボストンへ向かうのかさえ忘れてしまうほどだ。 湿った空気とBenson & Hedgesの硬質なニコチンがストンと肺に吸い込まれて気分は最高である。やれやれと思っていた時だった。

目の前に薄い水色と錆色が無造作に交じり合った汚いピックアップが飛び込んできた。やたらと車が揺れるのが印象的だったのを覚えている。運転席から、丸太ほどもある腕に熊のように毛が生えた赤ら顔の大男が出てくると同時に、助手席からは裸足の女が飛び降りて、池の水を弾き飛ばしながら男に荷物を運ぶよう指示すると、コンクリートの通路へ飛び上がった。

車と同じような水色のワンピースに金髪で、華奢な体つきをしている。熊の大男は、ピックアップの荷台から大きな皮のトランクを“エイヤっ”とつかむと、裸足で先に駆けていく女を追う。あっと言う間に、美女と野獣が風とともに去っていった。

目の前にはゴロゴロと野太いエグソーストを響かせる牛みたいな錆色のトラックが主人を待つばかりだ。ふと、運転席を見ると、バックミラーに15cmキュービックの白と赤の薄汚れたサイコロの縫いぐるみが2つぶら下がって揺れている。 今の二人は何だったんだろう?普段はどういう生活をしている人たちなのだろうか?

それにしても裸足で空港へ突撃しても平気な女性ってのは逞しい。それにしても、この野暮ったいサイコロをどういう気持ちでぶらさげているんだろ。ホント、アメリカって複雑なのか単純なのかわからん国だと思いながら、呆然とサイコロを見つめた。 (March04/2004)


 

   
 

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