-JAZZと鮎並-


友人が、この寒いサナカに、サカナを釣ってきた。結構な良型の鮎並(アイナメ)である。
昔、テレビのコマーシャルで、何とか言う変な作家が“ニューヨークでJazzを聴いてるとアイナメの煮付けが食いたくなるんだよね”とか訳のわからんことを言ってたのを思い出した。何でJazzを聴くと、しかもニューヨークでだよ、アイナメが食いたくなるのか?さっぱりわからん。試しに、自分もニューヨークのブルー・ノートやらスゥイート・ベイジルでJazzを聴いて見たが、ちっともアイナメの煮付けなんか食いたいと思わなかった。
んなもん、食いたいと思うほど醒めて居られなかったと言うべきか。作家はよほど妙な気分だったか、本当はJazzなんて、全然判ってねぇんぢゃねぇか?と疑っている。

JR新橋駅の西にある烏森神社を正面に見て、左手へ進むと路地沿いに「白梅(しらうめ)」という飲み屋がある。ここはイチゲンさんお断りなんて下らないことは言わない。前は、更に西のレンガ通りで瀬戸内小魚/季節料理として営業していたが、10数年前に今の場所へ移ってきた。自慢料理は広島から空輸で届いた瀬戸内海の活魚である。オコゼの薄作り、鯛の荒煮、そしてアイナメの刺身だ。今頃はカキも素晴らしいに違いない。

友人がプレゼントしてくれたアイナメは、白梅のアイナメを強烈に思い出させる。こいつはひょっとして頑張れば刺身になると見た。なるべく大きいのを2尾選んで、3枚におろす。皮を引いて片身の真ん中へ刺身包丁を入れて小骨をベルト状にして取り去る。それを3つくらいに切ってみた。皮を引いた身は薄い黄色が映え、フグに似た白さである。白梅のアイナメと同じだ!!
こういうものを食べるには本ワサビでないと申し訳ない。で、近くにある蕎麦屋へ行ってワサビを分けてくれ!と頼む。運良くGET!!

備前の徳利に、貰い物の吟醸酒をトクトクと一杯になるまで入れて、コタツの上に置いた。盃は志野のぐい飲みがよかろう。志野盃に一杯になるまで酒を注ぐ。小皿にワサビを出して、アイナメの造りに乗せる。酒をぐびっと呷ってから、アイナメに少し醤油をつけて口に放り込んだ。
ガツン!!とくる旨さ。歯ごたえの潔さ。これは!?何なんだ?ヒラメの薄作りはまずくはないが、何度も噛まないと食いちぎれない程の弾力がある。
それに対して、アイナメの造りは一発で噛み込めるが、その感触と味わいがなんとも言えぬ。セロニアス・モンクのフレーズが一発で決まった時のような、あるいはウィントン・マルサリスのリスキーなトランペットのアドリブが危険を顧みずに未知の高みへ昇華していって、そして再び凡人たる我々のいる世界へ飛び降りてきた時のような、そう、肌が粟立つ、あの瞬間に似た感触だ。

本当はアイナメの刺身を食べると素晴らしいJazzを思い出すというのが正しい表現なのである。例の作家に会う機会がもしあったらそう言ってみよう。


 

   
 

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