結婚指輪(Marriage
Rings)
結婚指輪なるものが流行りだしたのは、いつ頃からだろう? どうも記憶を辿ってみると、兄や姉が結婚した頃は無かったし・・・ 両親がおそろいの指輪をしていたこともない。 えれぇカッコ良い職場の先輩がプラチナの結婚指輪をしていたものだが、その先輩は自分より3つ年上。 私が結婚したのは昭和47年だから、その数年前あたり、どうも昭和40年代になってからではないだろうか? 私は結婚指輪というものを持っていない。 妻の指輪だけ用意したのを覚えている。 日本も高度成長期が絶頂に至った頃にこの文化が浸透し始めたのかもしれない。 カッコ良すぎる先輩達が巷(ちまた)で、女性に言い寄られないために、結婚してますよ! 独身ぢゃありませんぜ!と高らかに宣言しているように見えた。 逆に言えば、結婚してるくせに、結婚指輪をしていないのは、下心アリノスケではないか! けしからんではないか!と言う見方もあったようだ。 たかが指輪程度で、メクジラを立てることもないのだが・・・ 先輩達がカッコ良いのは仕事が冴えていたからだ。 プラチナの結婚指輪なんて、安っぽいなぁとしか思わなかった。 自分で指輪が作れるようになってみると、なるほど、美しい指輪って良いなと考えるようにもなった。 別に、結婚しているとか、してないとかを示すものではなくて、金属の美しさに惹かれて使うようになった。 プラチナの指輪がつまらなく見えた直感は今になって正しかったと思う。 プラチナは環境変化に強く、金の倍ほどもするが、金属光沢の点ではステンレスと変わらない。 それにプラチナだけの指輪ならロウ型にプラチナを流し込むだけで容易に出来る。 要するに、指輪の重さ(g)×プラチナの価格/gの価値しかない。 前置きが長すぎた。 ひょんなことから施主とのお付き合いが始まった。 渓流魚の話がキッカケで指輪の作成を依頼された。 最近の結婚指輪にこめられた意味は、昔日の先輩達の指輪の持つ意味と、いささか異なって来ていて、もっと純粋さを帯びているのではないかと勝手に考えている。 だとすると遊びの指輪や、単なる”結婚記号”にしか過ぎないプラチナ指輪とは違うものでなければならないと思っている。 ここに結婚する世界で唯一の夫婦特有の意味合いが込められていたい。 そこまで大げさには考えないにしても、ふざけた作り方だけは避けねばならぬ。 ここでは彫金を自ら手掛けられて、そして、こういう指輪を作って見たいと思われる方の参考になるようにポイントを記しておきたい。 指輪は二重構造にしてある。 内側のリングは施主の指のサイズに合わせて作る。 外側のリングは装飾用である。 ここは様々な金属を使うが、モノによっては僅かながらも有害な物質を含む金属を使うこともあり、常時皮膚に密着することを避ける意味もあって二重構造にする。 ただ、二重構造にすると、側面を隠すための処置が必要になり、一重のリングに比べると信じられないような手間が掛かることを覚悟しなければならぬ。 特に長時間の研磨作業が伴う。
二つのリングをシルバーで兎に角作ることから始まる。 指輪のサイズは指輪の幅が広がると狭い幅のものより号数を大きくしないとうまくフィットしない。 内側のロウ付け跡が見えないようにするため、すり合わせを正確にすること、カラゲ線で密着させること、2分ロウなど高品位のロウを使うことなどが大切だ。 高品位なロウほど、銀の色に近いし、その後のロウ付け工程で加熱が幾度と無く及んでも比較的ロウ引けが起きない。
芯金棒に通してサイズの調整をしながら真円にする。 内側のリングにカラゲ線を巻いて、リングの外径を採寸する。 カラゲ線を使うと正確な長さが測りやすい。
装飾用に使う四分一(朧銀)を内側のリングの外径の長さに合わせて切り出す。 四分一はかなり硬いので、しっかりカラゲ線で固定しておきます。 ロウは2分ろうで。
これで、ペアの二重リングが出来た。
出来た二重リングの側面をシールディングする。 しっかりしたロウ付けが必要。 5分ロウで良い。 1箇所出来たら、内側と外側を糸鋸で丁寧に切り取る。 この切り取りが丁寧であれば後の研磨工程がグンと楽になる。 このときに四分一が十分暴れるよう加熱する。
暴れた部分をヤスリで擦り落として純金を蒸着すると、こんな風になる。 あとは、ヤスリの番手を順次細かくして、ひたすら研磨作業をして、緑青液で煮込む。 四分一の場合は赤銅と異なり、それほど厳しい炭研ぎをしなくても着色する。
煮込みを済ませ、表面に蜜蝋を薄くコーティングして、ほぼ完成。後はリングに言葉を彫ることだが、それはお施主様にゆっくり考えて頂いて、町のジュエリー・ショップで頼めばやってくれる。
途中、多少省いたところもあるが、彫金をやられる方なら、この程度で十分理解頂けると思う。 なお、側面のシールディングのやり方の一つとして、丸銀線でリングの径より少し小さめな輪を作り、それを叩いて平らにして張り付ける手法を外国の方がやっている。 私も試してみたが、やはりクオリティの点で満足出来なかった。 側面のシールディング用銀板はリングの厚さとの関連でなるべく厚い方が美しく迫力が出るが、板が厚いだけロウ付けと研磨に負担が掛かる。 皆さんで工夫を凝らして、更に素晴らしいもの、感動的なものを作ってください。
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