-真空管アンプ;その2-


真空管を増幅素子として使ったアンプが一世を風靡したのち、増幅素子はトランジスタの時代になっていった。なんといっても小型で軽量だし、消費電力は少ない上に、真空管のように電球の中に細かい細工をしたものではないから堅牢だ。昭和30年代後半から40年代に掛けては日本経済が成長を繰り返し、嫌なことだが右肩上がりが普通といった考え方に支配されて来ると、オーディオの世界にもそうした論理がまかり通るようになってきた。つまり、訳のわからん効率化の論理だ。趣味の世界には全く無縁の論理だ。

真空管式アンプとトランジスタ・アンプのどちらが良い音がするかという議論は難しい。一つには鳴らすべきスピーカーによって話が全く変わってしまうからである。音のエンスージアスト達が真空管アンプで駆動していたスピーカーは、おそらく非常に能率の良いホーン型スピーカーを主体とするものであったに違いない。低音部を受け持つウーファーにしても、大きな箱に開口部をもったバスレフと呼ばれる方式が多かったのではないだろうか?

一方、トランジスタ・アンプが主流になってきた頃のスピーカーと言えば比較的小さな密閉型のエンクロージャーにスピーカーを閉じ込めたもので、よくブックシェルフ・タイプなどといった2ウェイ〜3ウェイの低能率なそれであった。アンプは数十ワットから百ワットもあって力ずくで鳴らそうとするものだった。

効率のずば抜けたスピーカーを再生帯域ごとにチャネル・ディバイダーかネットワークで分割して、独立した小出力の真空管パワー・アンプで鳴らした場合の音と、ブックシェルフ・タイプのスピーカーをインテグレーテッド・アンプで鳴らした音とどちらが良いか聞いてみれば、もう、比較するなんて話にならないほどの差がある。

ドンシャリ音ぢゃなく、中音域のふっくらとした圧倒的な厚みのある音、繊細な音楽を奏でればヒタヒタと中音スピーカーから聞く者の胸に直接押し寄せる弦楽器。たかが、数ワットの出力しかない真空管式アンプだが、トップシンバルの余韻さえ震える夏の雨上がり・・・ってぇ具合です。

しかし、真空管式のアンプは姿を消していった。もはや、日本国内で真空管を製造しているメーカーさえ無くなってしまった。真空管アンプに使われた出力トランスを巻くメーカーも姿を消してしまった。日本という国、日本人と言う民族には趣味を貫く余裕が無くなってしまったのだと思う。

兎に角、効率さえ良ければいい。効率の悪いものはどんなに品質が良くても、品性が良く、本質的にその目的合致性に優れていても否定されてしまう。要するにはっきり言って、日本あるいは日本人は文化の無い国、国民になってしまったと言い得るのではないだろうか? まあ、文化とはその国が生きていくうえで、選択した生き様そのものであると定義すれば、さもありなんだが。日本の拝金主義的思想がこうして優れた文化的存在を破壊していく。それでも陽はまた上ると言うべきか。まだ書きたいことは一杯あるがイヤになってきた。合掌。


   
 

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