-春が来たぁ〜-


と言って、大騒ぎしてみたいものだが、今年は気温の変動が激しく簡単には喜ばせてくれないようだ。そうはいっても春の証拠を求めて、里川の土手に出掛けて土筆(つくしと読むのだ!)を摘んできた。

家の傍の八百屋でも土筆を売ってるんだが、小さな薄い弁当箱、そう散らし寿司なんかが入れてある透明のケースに入って、1パック280円也だ。

これって、煮るとほんの僅かになってしまうから、多分、最低でも4パックは買わないと酒のつまみとしてはさびしいものがある。里川では、あっと言う間に、このレートだと、2,000円分くらいの土筆が採れた。

さて、家に帰って、コタツ(まだコタツですぞ!)のうえに新聞紙を広げて、戦利品をぶちまける。さて、こいつをどうしょうか?その前に考えていることがある。

土筆の煮物って、鍋に入れた時の量と煮上がった量に格段の差があること、ご存知だろうか?結構あるな!とほくそえんでも、出来上がってみると鍋の底に張り付くくらいの量になってしまうのだ。

それを”割り山椒向こう付け”みたいな器に盛って出してみると、オイ、オイ、まじめにやってんのかよ!みたいな惨めさになるものだ。 呑み助ばかりならそれでもいいさ。でも、おっかさんみたいに飯と一緒に、この土筆を食おうとする人がいた日にやぁ、堪りませんわ。

箸で一掬いで、ワリ山椒の底が見えてしまうほど大量に取られてしまうのだ。これには焦るよ。そう、これと良く似た現象が起きるのが、若い連中とフグを食いに行ったときだ。

なにしろ若いのかバカイのか知らんが、青磁の色も透けよ!とばかりに薄造りにされたフグを大きな箸で、それこそ、端から端まで掬われて見なさい! あっというまにテッサがなくなっちゃうぢゃないか?!

これと同じなんだね・・・土筆の食べ方ってのはさ。一筋箸で摘んでは、歯の隙間に押し込んで、ちゅるちゅると醤油味を吸い込んでは、盃の酒をグビリとあおる。次にふ〜ん!と甲高い、感に堪えぬ有様の声を上げて春の息吹を賛嘆する。こういう態度でなければいかん!

いわゆる、小さい口してたべなきゃならん食い物なんです。お分かりですね? それはそれとして、土筆ってのは、ご案内のとおり、ハカマを丁寧に取り去らなければならないですね。

この作業が実にtroublesome、つまり面倒くさくもイヤラシかるけるなんです。で、ハカマ取らざるもの食うべからず!!というのが我が家の家訓となりにけるかも。

老若男女を問わず、土筆を食べる人、すべからくハカマ取るべし!と言うわけです。 ハカマを取るという、かくも煩瑣な仕事をせずにして、やおら煮上がった土筆を箸でドチャーっと掬い取られた日にはこれは怒り心頭に発す!ということになります。もの凄い目付きで睨みまくられること必至です。

 かくして、土筆を食いたい者共は、オヤジもおかあんもお婆はんも、みな必死になって、ハカマ取り作業にいそしむことになるんですが、なにせ、大量に取ってきた土筆のハカマ取り作業には2〜3人でやっても1時間半はかかる。

つまり大の大人4.5人時の労力を要するわけですね。これを金額換算すると、働き盛りのオイラなんかは時給で5,000円だから、まあ、タラチネの接頭語付きの方々の労賃を入れても1万5千円はくだらない作業費が掛かるわけです。 

おわかりですね!?ことほど左様に、土筆というものは誠に高価な食べ物なんですよ。

それに、大都会では土筆なんてマーケットで売っているとも思えない。つまり、マボロシ化した食材なんですなぁ。 こういうものをバリバリ食えるということは、果たして贅沢なものだと思うのだが、皆様方はどのように思われるだろうか? 

 ハカマを取り去った土筆は軽く湯がいてアクを取ったあと、鰹節を削ったもの(これは自分で鰹節をカンナで削るとよほど美味である)と醤油で味付けして煮上げるのだ。

煮て味付けしたものを天麩羅にしてもきっとうまいに違いないが、まだ試していない。

土の中から出たばかりの土筆の頭は薄緑色で、その下の茎は淡いピンクだ。これが、山寺で修行中の若い雲水が何気なく頭を下げたら、まるで土筆の頭と茎のようだったのには驚いたものである。


   
 

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