-ハゼの天婦羅-

夏から秋にかけてはハゼが河口で釣れる。ハゼも20cm近くなると、まさにてんぷらの王様だ。簡単なリールのついた竿に、仕掛けにガン玉を通して、2〜3本の釣り針にゴカイをつける。よいこらしょっと、岸から投げると錘がシューッと唸って飛んでいき、先のほうでボチャンと音を立てて落下する。

竿先を10cmくらい動かしては、戻してリールを巻く。錘がごっくん、ごっくんと坂を上っているような雰囲気があるところにハゼは待ち構えているようだ。突然、ぷるぷるぷるるっ。

竿先に感触が走る。このとき慌てて引っ張ると、針ガカリしないことがある。一呼吸おいてから軽く合わせてやると、再びぷるぷると来るからシャカシャカとリールを巻く。秋の陽に体を透かせてハゼが上がってくる。

さて、家に帰ったら早速、てんぷらの準備だ。ハゼに合う野菜としては、シシトウなんかも良いし、秋茄子も最高。下駄はいて自転車に飛び乗って野菜の買出しに走ろう。慌てて角のご隠居が塵拾いなんかしているのと当たらないよう気をつけよう!

ハゼは20cm近いものなら、まず、頭を落として腹へ包丁を入れる。何を食べてるか判らないので、内臓は綺麗に掃除して、頭の方を右手、腹を手前において、背骨から上側へ包丁をいれて、尾の近くまで切り下げる。ただ、背中へ刃を出してはいけない。次に今開いた片身を下にして、まな板へうつぶせにして、今度は反対側の身と骨の間に包丁を通す。尾の近くまで裂いたら、包丁を立てて、背骨を切り落とす。こうすると、身が分かれてしまわずにおいしくいただける。

てんぷら油はゴマ油の使い古したものに限るとは、かの魯山人の言だが、そんなもの容易に手に入らないのではなかろうか?仕方なく新しいサラダオイルを200度くらいまで加熱する。てんぷら粉はなるべく薄くして温度を下げておくのが良い。最近の油は耐熱性が向上しているから、180度よりもっと高温にしてもかまわない。てんぷら粉を箸の先につけて油に入れると中まで落ちる前にシャーンとはぜっかえる位の温度が良い。

ハゼの身にはあまりてんぷら粉をつけすぎないようにして、そっと熱した油へ滑り込ませる。揚げる時間は1分15秒だ!!奥様方の中にはなんでも熱をしっかり通さないと食べられないという過保護に育った方がいるので、そういう方にはてんぷらを任せてはいけない。この料理はあくまで旦那主体で進めて欲しい。ガリガリに揚がったハゼのてんぷら位悔しいものはない。

ふうわりと揚がったハゼのてんぷらは、まさに神の味といえよう!第一、ハゼなんでいうものは魚屋では売っていないのだ。どんなに海のそばの町でも魚屋という流通機構の末端で生きたハゼなど今の日本ではお目にかかれないくらい、日本は駄目になっている。

あつあつのハゼのてんぷらでビールを飲むのも良し。ぬる燗を織部の徳利に入れて、三島の盃で小さい口して、一杯、一杯、また一杯とやるのも最高だ!こういう時、決まって考えることがある。

つまり、”ああ、俺の人生は間違っていなかった”とね。

 

                           Tidbitトップ     HOME    NEXT

inserted by FC2 system